ツムガタギセル

軟体動物門 腹足網 柄眼目 キセルガイ科 殻径約5mm 殻長約25mm

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木の幹を登っている明るい褐色の個体。非常にお手本的な「紡錘形」に見えます。

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白っぽい個体と茶褐色の両極端の個体がランデブー。

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殻が平滑で白っぽいですが、これは表面の殻皮が剥げているように見えます。

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この個体は殻の表面はなめらかですが、殻皮が剝がれた形跡はないように見える。

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体層(最終層)の成長脈が少し強く見える個体。

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幼貝は殻頂が尖り、成長脈は弱くて繊細。

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雨天時、立ち枯れ木の表面に群れていた。

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「ミカワギセル」(上)と「ツムガタギセル」(下)の殻形の比較。殻頂の形と成長脈、殻口形状に差がある。

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「ミカワギセル」(上)と「ツムガタギセル」(下)を同縮尺で比較。

キセルガイ科のカタツムリは「殻の高さを伸ばす方向に進化した」グループです。
実際にはキセルガイモドキ科のように同じような方向に進化したものたちもいますが、キセルガイ科が最も種類数が多く、特に細長くて落ち葉の下などに潜り込みやすい形態をとることで成功したグループといえます。
一般的なカタツムリは活動中は文字通り殻を「背負って」いますが、キセルガイの仲間は「体の後ろに引きずっている」感が強く、体の割に長い殻を持ちながらも、それほど労力を使わない戦略に見えます。
長い殻が重力に逆らえない代わりに軟体部は非常に柔軟で、頭を殻口から見てほぼ360度回転させることができ、殻の向きを変えずに前進・後退することができます。

本種は主に本州から四国の広い範囲に生息いるとのことで、移動性の低い陸貝の中でも特に地域隔離で分化しやすいキセルガイ科としては分布の広い広域種だといえます

本種の和名の「ツムガタ」とは漢字表記すると「紡形」のことだと思われ、いわゆる「紡錘」の形をしているということを意味した命名のようです
実際にはキセルガイ科の種の大半がいわゆる「紡錘形」の殻を持っており、とりわけ本種が特殊な形をしているわけでもありませんが、ある意味最も均整の取れた紡錘形をしているものの一つとも思います。
形態的には殻頂が細くて後半部に向かって均一に太くなり、次体層が最も太くて体層が緩やかにすぼまっている形状は、いかにも「紡錘形」のお手本のような形状に見えます。

常緑樹が主体のishida家裏山では「ミカワギセル」が優占しており本種の生息数自体は少なめですが、殻頂が丸くて成長脈が殻全体で明確に「肋状」になっているのが「ミカワ」で、殻頂が細くとがっていて、成長脈が細い溝状となっているのが本種と見分け可能です。
(本種も最終層は成長脈が顕著に見えるものも多いため、次体層から殻頂に向けての成長脈を見たほうが確実です。)
また、殻皮が茶褐色の「ミカワ」と比較すると地域性かもしれませんが本種は明るい褐色〜殻皮が剥げていなくてもかなり白っぽく見えるものが多く感じます。
また、両種が同時にみられる場所でも、主に落ち葉の間で活動する「ミカワ」に比べて本種のほうが朽木を好む傾向が強いようで、雨天時には腐朽木の表面をかなり高いところまで登っているのをよく見かけます。
自宅から数キロ離れた照葉樹林では本種が優占しており、雨天時には地上に積まれた薪や林内の倒木・立ち枯れ木などに多数の本種が群れていて、地上から2m以上の高さにまで登っているものさえ見掛けました。

本種を含むキセルガイ科の陸貝は特に地表の落ち葉・枯れ枝などを含むリター層が生息場所となっているため、安易な公園化や寺社の鎮守の森の地面を片付けなどをしてしまうと生息数の激減を招く恐れがあります。