ミカワギセル

軟体動物門 腹足網 柄眼目 キセルガイ科 殻径約4mm 殻長約22mm

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こんな感じで2匹がくっ付いているのをよく見ますが、これは繁殖行動のようです。(まだ交尾には至っていません)

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このようにV字型か平行に近い態勢で交尾するようです。(これもまだ交尾には至っていません)

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殻の成長に伴う年輪状の「成長脈」が強い縦肋状になっているのが特徴的。

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巻きの最終層(体層)がすぼまって、殻口が反っているのが成熟の証し。

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殻口の形状と内部の腔壁などの構造が同定のポイント。

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手前の若齢個体はまだどんどん殻の巻きが太くなってゆく段階。奥に成熟個体が見える。

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若齢個体は殻頂の丸さが判り易い。胎殻の部分(約3巻き)には成長脈が見えない。

キセルガイ科のカタツムリは「殻の高さを伸ばす方向に進化した」グループです。
実際にはキセルガイモドキ科のように同じような方向に進化したものたちもいますが、キセルガイ科が最も種類数が多く、特に細長くて落ち葉の下などに潜り込みやすい形態をとることで成功したグループといえます。

本種は「ミカワ」の名の通り、愛知県東部の三河地方で発見(三ヶ根山)・新種記載されたための命名です
移動性の低い陸貝の常で本種も地域性が強く、三重県中部、愛知県東部、静岡県西部にかけての主に平地から低山地に分布しています。
愛知県西尾市の産地は県指定の天然記念物に指定されていますが、生息に適した環境さえ整っていればちょっとした森の落ち葉の下などで普通に見られます。近畿地方を中心に分布する「コンボウギセル」の地域亜種との説があり、本種のほうがより小型で成長脈が肋状に盛り上がって目立つことが特徴ですが、これも地域内での変異が大きいとのことです。
キセルガイ科全般の殻は概略「紡錘形」をしていますが、「コンボウギセル」も含めて「こん棒状」といわれる本種の殻形は、胎児殻(生まれたときから背負っている貝殻部分)があまり先細になっていなくて殻頂が丸く見えるのをこん棒の持ち手と見立てているようです。
子供の頃は「死んでで白くなった貝殻だけしか見付からないけど、不思議な形のカタツムリだなあ」と思っていました。
実際には主に落ち葉の下などで活動しているために普段は活動しているところを見かけないだけで、雨天時に我が家の裏山の林床を見ると落ち葉の間などにかなり多くの活動個体がみられます。
掲載した写真もすべて自宅の敷地内のもので、当地では本種が優占種のようです。

キセルガイ科は全般的に寿命が意外に長いようで、本種も老成した個体は殻の表面の殻皮がかなり剝げて白っぽくなったものが多くみられます。

キセルガイの仲間はほとんどが左巻きで、大方の種が小型で殻口の部分がくびれているだけでなく、内部に「腔襞(プリカ)」と呼ばれる襞状の構造を持っているのも特徴です。(殻口のくびれと閉弁、腔壁などの構造によって、捕食者の侵入を回避する効果があるらしい)
ここの形状が種の同定に非常に重要だそうですが、生きた貝の場合はここの確認は難しいうえにishidaのように研究者でない人間にはキセルガイの同定はなかなかハードルが高くて、これまでは明快に種名を特定できなかったので個別の記事にはしていませんでしたが、図鑑やネット頼り(実際には草刈りの際に拾った死殻も参考にして)での「ミカワギセル」とのishidaの見立てで問題なさそうとのアドバイスを専門家からいただいたので掲載しました。