イワサキセダカヘビ

爬虫網 有鱗目 セダカヘビ科  体長700mm前後

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「一人ナイトツアー(?)」から戻る途中のギンネムの枝にいました。

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鼻先が短く、「凍り付いた笑顔」が独特の顔付きに見える。オレンジ色の虹彩が何だかかわいい?

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全体として小型で細長い体形で、思ったより艶がある気がした。

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頚部が細く、名前通り背側が高く盛り上がった独特の体型です。

石垣島と西表島だけに生息する小型のヘビで、「セダカヘビ科」に属するヘビは日本では本種だけで、近縁種が台湾・中国南部〜インドにかけて生息するとのことです。
小型なだけでなく非常に細長く、命名通り背側が高く盛り上がったおむすび型の断面を持つ体形をしており、頚部が細く、目から鼻先までが短いという独特の外見です。

本種を含む「セダカヘビ科」に共通する特徴として、カタツムリを専門に捕食するという独特の生態に加え、カタツムリの軟体部を引き出すために上顎の歯は一部が消失し、加えて下顎の歯は左右で本数が異なるという特殊化がみられるということです。
Youtubeで本種がカタツムリを捕食する動画がいくつか公開されていますが、カタツムリを見付けた本種はいきなりカタツムリにかぶりついたりはせず、獲物との位置関係や角度がちょうど良い位置になるまでかなりの時間をかけて追尾しています。
カタツムリの位置がちょうど良いところになったところで噛み付き、上あごで殻を固定し、軟体部が引っ込むため下顎が殻口内に引き込まれるようにして固定されます。
殻口内の軟体部に下顎の歯が喰い込み、下顎を動かすことで左右非対称な歯によって殻を回転するようにして上手に軟体部を引き出してゆきます。
(ちなみに図鑑などでも書かれていましたが、カタツムリを専門に食べるわりには粘液は嫌いみたいで、必ず口の周りに着いた粘液を枝などに擦り付けて拭うようです。)

ただし、本種の下顎の構造は一般的な「右巻き」の殻を持つカタツムリに合わせた特殊化をしており、「左巻き」のカタツムリを捕食しようとしても高確率で失敗するようです。
そのため、本種は「右利きのヘビ」とも呼ばれ、生息地では本種の捕食を逃れるのに有利と思われる(他の地域では圧倒的に少数派の)「左巻き」の殻を持つカタツムリが独自に進化して多数派となるほど繁栄しているとのことです。
また、捕食される側のカタツムリでも、本種に襲われると尾を自切して捕食を逃れるという独特の習性を持つように進化しているものがいるとのこと。
捕食者が捕食能力を高めるよう進化するだけでなく、被捕食者側も捕食圧によって逃れるように共進化するという生物学的な事例として注目されている好例ですね。

本種の和名の「イワサキ」とは、明治時代に石垣島気象台の2代目所長となって八重山諸島の民俗学や自然科学に多大な貢献のあった岩崎卓爾氏への献名によるものです。
元々生息数が少ないうえに特殊な食性であることや、夜行性、樹上性といった習性から、実際に目にする機会は非常に少ないようで、1937年に岩崎氏によって最初の学術標本が採集されて以降は17年の間は2尾目が採集されておらず、以降も本種が捕獲されるとニュースになるような状況が長く続いていたそうです。

ishidaとしても「右利きのヘビ仮説 東海大学出版部(細 将貴 著)」で読んで以来「憧れのヘビ(?)」だったもの(ヘビに憧れるっていう感覚は生き物好きな人間以外には理解しがたい習性(^^;)ですが、八重山訪問3度目の正直、2024年の西表島遠征での一人ナイトツアー(笑)から戻る途中、ヘッドライトに照らされたギンネムの木の枝に鎮座する本種を見た時には小躍りして(?)大喜びでした。