クビナガギセル

軟体動物門 腹足網 柄眼目 キセルガイ科 殻径約3.5mm 殻長約17mm

kubinagagiseru_P1325127.jpg - 129,403Bytes
この角度だと「首長」感が最もはっきり判る。かなり老成した個体のようで、藻類の付着と殻の摩耗がすごい。

kubinagagiseru_P1325196.jpg - 134,677Bytes
やや老成した右の個体に対して、左は成熟したての若者?(左が本来の色です)

kubinagagiseru_P1325212.jpg - 118,661Bytes
角度的に「首長」感があまり目立ちません。縫合部がしっかりくびれていて菓子パンの「コルネ」みたい。

kubinagagiseru_P1325214.jpg - 115,359Bytes

kubinagagiseru_P1360282.jpg - 106,704Bytes
殻口の手前がしっかりくびれていて襟巻きのように見える。

kubinagagiseru_P1360152.jpg - 166,932Bytes
殻口手前のくびれ部の細さが良く判る角度。よくこれで軟体部全体を殻の中に引き込めるなあと感心(^^)

kubinagagiseru_P1360175.jpg - 116,613Bytes
殻口手前のくびれのため、体層部(巻きの最終層)はかなり小さめに見えます。

kubinagagiseru_P1360183.jpg - 104,915Bytes
上の個体を反対側から撮影したもの。この角度だと意外に普通に見える?

kubinagagiseru_P1360262.jpg - 96,252Bytes
他種に比べて殻口はかなり小さめです。

「イシマキシロマイマイ」と同じく、本種も愛知県東部の石灰岩地帯に生息する固有種で、今のところ石巻山が唯一の産地のようです。

キセルガイ科のカタツムリは「殻の高さを伸ばす方向に進化した」グループです。
実際にはキセルガイモドキ科のように同じような方向に進化したものたちもいますが、キセルガイ科が最も種類数が多く、特に細長くて落ち葉の下などに潜り込みやすい形態をとることで成功したグループといえます。
一般的なカタツムリは活動中は文字通り殻を「背負って」いますが、キセルガイの仲間は「体の後ろに引きずっている」感が強く、体の割に長い殻を持ちながらも、それほど労力を使わない戦略に見えます。
長い殻が重力に逆らえない代わりに軟体部は非常に柔軟で、頭を殻口から見てほぼ360度回転させることができ、殻の向きを変えずにほぼ前進・後退することができます。

本種に限らずキセルガイの名前は、殻口が細長く伸びている形態がタバコを吸う「キセル」に似ていることからの命名ですが本種の場合は特にこの部分が長く伸びていることから「首長」と命名されているとのことです。(キセルガイ科の中でもっとも「キセルらしい」といえないこともない?)
それ以外の特徴として、殻の先端部分が殻頂に向かって細長く伸びており、更に縫合部のくびれも大き目で「コルネ」感が強く見えます

また、キセルガイ科は全般的に寿命が意外に長い(10年以上)ためか、本種も老成した個体はかなり殻皮が剝げて白っぽくなったり、藻類に覆われているものが多くみられます。

キセルガイの仲間はほとんどが左巻きで、大方の種が小型で殻口の部分がくびれているだけでなく、内部に「腔襞(プリカ)」と呼ばれる襞状の構造を持っているのも特徴です。(殻口のくびれと閉弁、腔壁などの構造によって、捕食者の侵入を回避する効果があるらしい)
ここの形状が種の同定に非常に重要だそうですが、生きた貝の場合はここの確認は難しいうえにishidaのように研究者でない人間にはキセルガイの同定はなかなかハードルが高くて、これまでは明快に種名を特定できなかったので個別の記事にはしていませんでした。

本種の場合は「石巻山の固有種」でもあり、同所的に同じような殻の特徴を持つものはいないと思われることから「クビナガギセル」と見立てました。

なお、石巻山の上部(概略は旅館街より上)は「石巻山石灰岩地帯植物群落」として国の天然記念物、愛知県の「石巻山多米県立自然公園 第1種特別地域」に指定されており、動植物の採集は現状破壊行為として禁止されています。