コウガイビルの一種
扁形動物門 有棒状体綱 三岐腸目 リクウズムシ
科 体長40mm程度

kougaibiru_P1337051.jpg - 130,599Bytes
イチョウの葉のような頭部の形態が「笄」を連想させるとのこと。

kougaibiru_P1337065.jpg - 118,755Bytes
背面には明瞭な茶褐色の背中線があり、その両側にも暗色帯があって体の後半がやや濃色。

kougaibiru_P1337069.jpg - 120,621Bytes
頭部の先端から根元のくびれの両側に「光受容器官(眼点)」がある。

kougaibiru_P7131995.jpg - 129,766Bytes

kougaibiru_P7133192.jpg - 104,013Bytes

kougaibiru_P7132942.jpg - 95,763Bytes
同じ種かどうかは判りませんが、カタツムリを捕食中のもの。笄型の頭部が丸く縮こまっている。

コウガイビルに代表される「扁形動物」に属する動物は、陸上で普通に見掛ける生き物の中では最も人間から程遠い分類群とも言って良いような生き物です。
一見した印象は名前にあるように「ヒル」の仲間のように見えますが、ヒルは「環形動物門」に属し、体節構造を持っていて、節足動物や脊椎動物などの一般的な生き物と同様に口から肛門へと続く筒状の消化器官を持った生き物です。
それに対して海棲の「クラゲやイソギンチャク(刺胞動物)やヒトデやウニ(棘皮動物門)」など放射状で前後左右の無い生き物たちに比べれば、一応は「前後・左右・裏表」がある「扁形動物門」の生き物というのは広義の「ムシ」っぽい姿をしてはいます。
しかし、本種を含む「ウズムシ」の仲間は摂食口と肛門を兼ねた咽頭が腹部中央辺りにあって、消化管はY字状に3分岐して1本が前方、2本が後方に延びていることから「三岐腸目(Tricladida)」と呼ばれています。

「三岐腸目」の生き物としては水棲の「プラナリア(ウズムシ)」が有名で、本種を含むリクウズムシ(Geoplanidae)科も陸上に棲む彼らの同類です。(Geo:陸の-Planidae:プラナリア類という命名)
一般的なプラナリアのイメージは、矢尻状の頭部に一対の眼があってユーモラスに思えるのですが、陸棲の仲間たちにはそのような外見のものはおらず、どちらかというと眼鼻のはっきりしないグロテスクな生き物というイメージしかありません。

以上は共通的な内容ですが、相変わらず前置きが長いのがishida式です…(^^;;;;;;

分類体系的には科や亜科について色々な意見があるとのことで、ここではWikipediaに掲載されているものに準拠しますが、「リクウズムシ科」の下位には「コウガイビル(Bipalium)属」「リンコデムス(Rhyncodemus)属」「ゲオプラナ(Geoplana)属」の3分類あり、本種は「コウガイビル属」に属しているということになります。

コウガイビル属のものについては、名前の通り体の先端(脳はあるみたいなので便宜上の「頭部」と呼んでいいのかな)の形状が日本髪を結う際に使用する「笄(こうがい:ishidaは見たことがないですけど…)」を連想させることからきており、さらには頭部の前端には細かな黒点が多数あって、これが「光受容器官(眼点)」となっているようです。
もちろん眼点が沢山あってもレンズ眼ではないので、明るさの違いや方向程度しか判別していないものと思われますが、頭部が尖った「ゲオプラナ属」のものよりもより進化した形態のため、「コウガイビル属」の方がより繁栄しているのではないでしょうか。

種によっては体長1mほどになるもの(日本では外来種の「オオミスジコウガイビル」)もおり、全世界的に見ると派手な色合いや複雑な模様のものなど、サイズや体色も含めて多種多様なものがいるようです。
ishidaが実際に見たなかでは(種は不明ながら)体長50cmを超えるものと遭遇したことがありますが、普段見るものは多くがせいぜい数cm内外のものばかりです。

写真のものは、雨上がりの森などで見られるもののうち、40mm程度と小型の部類(伸縮するので判り辛い)ながら、頭部の幅が広めで、やや黒っぽい褐色の体色に背中線がありその両側がやや濃色になっているものです。
より体長が大きくて明るい黄褐色のものや、逆に背中線の無いもの、体後半が濃い黒褐色のもの、頭部がイチョウ型よりも幅狭で丸みのあるものなども見られますが、どこまでが種の違いなのかが判然とせず、種の同定までは難しいです(^^;

コウガイビルなどの陸棲プラナリアは全て肉食性とみられ、主にカタツムリや小型の節足動物などの動きの遅い生き物たちを捕食しているようで、これまでもカタツムリの幼貝やダンゴムシを捕食しているのを見たことがあります。
彼らの粘液はカタツムリ以上にドロドロネバネバがしているようで、獲物を粘液で包むようにして捕え、腹部中央近くに巻き込みながら腹面にある口から消化液を出して体外消化するとのことです。
実際に捕食シーンを見たものはぎゅっと縮んでいたため体形や体色はイマイチ判然とせず、初めはリクウズムシの一種かと思いましたが、実は頭部は笄型のものが丸く収縮している状態だというのが写真で見てやっとわかりました。