イセノナミマイマイ

軟体動物門 腹足網 柄眼目 オナジマイマイ科 殻径約40mm 殻長約25mm

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最も普通に見られるタイプです。裏側が見えませんがこの個体は「0-2-0-4型」の色帯を持っています。

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色帯が4本あるタイプは「1-2-3-4型」。第1の色帯は大体このように薄くて次体層以降はほとんど無くなっている。

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「0-2-0-4型」で殻の地色が赤みがかったタイプの個体。

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第2の色帯がやや細い。この個体も「0-2-0-4型」の色帯。

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この個体も「0-2-0-4型」の色帯。臍孔を取り囲んでいるのが第4の色帯。

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無帯で明るい色の個体は軟体部背面の斑も薄い傾向がある。

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螺搭が平べったく、弱い周縁角がある個体。

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螺搭が平べったく、はっきりとした周縁角がある個体。

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この日はアジサイ上で多くの個体がみられた。アジサイの枯れ葉は好物のようです。

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ニッポンマイマイほどではありませんが、軟体部もよく伸びます。

「イセノナミマイマイ」は、東海〜近畿地方の平地とその周辺の里山に生息する大型のマイマイ属のカタツムリで、分布は静岡県西部から兵庫県あたりまでと西に偏りはありますが伊勢湾を取り囲むような形の分布を持つことから「伊勢の並マイマイ」と命名されています。
ただ、名前とは裏腹に、種としての「ナミマイマイ」ではなく、「ヒラマイマイ」の地方型という位置づけだそうです。
愛知県は地質形成上の歴史からか大型マイマイ類の空白地帯となっており、愛知県で普通に見られる大型のマイマイはほぼこれ一種のみ(稀産種を除く)です。

ishidaの子供時代によく遊んだカタツムリといえばまず「平たいやかんのような丸みがある褐色の殻に茶色い帯が1本入った」本種のイメージしかありません
しかし、実際には殻を彩る「色帯」の本数や殻の色合い、軟体部の模様などにはかなり個体毎に変異があります。
「色帯」の本数は0〜4本で、最も普通に見られるのは色帯が第2・第4の2本(実際には第4帯は臍孔の周囲に丸くかかっているだけなので、表から見ると1本に見える)のもので、そのほかには全く無帯のものと第1〜第4までの4本を持つものがいます。
殻形は丸みがあって低い螺搭、周縁角はなくて成長脈がやや荒くて艶がない、軟体部の背面に斑模様があって正中線はないという特徴を持っています。
(殻が無帯のものは全体的に色素の薄いイメージで、軟体部も斑紋が目立ちません。)
個人的には殻の形状・高さも若干の個体差があるように感じていて、螺搭がより平べったくて弱い周縁角があるもの(ヒラマイマイ型?)も見られます。

主に地上性で、昼間は落ち葉の下や葉の裏などに隠れており、夜間や雨天時に活動します
木にも登りますが、主として地上付近の落ち葉や、木の幹や岩の表面・ブロック塀やガードレールの表面に生えるの藻類などを食料としています。
カタツムリがコンクリートやブロック塀に多数見られるのはコンクリートの石灰質を摂取するためといわれますが、都会のコンクリートジャングルが好きなわけではありません。
真っ新なコンクリートではなく主に苔の生えたような古びたコンクリートで見られることが多く、特定の場所に群れているということは餌になる藻類だけでなくその地上にカタツムリが隠れるのに適した環境があるともいえます。

ishida家裏山では晴れた昼間には休眠中のものもほとんど目に付かないにもかかわらず、雨の朝に探すと多数の本種がうろうろしていてびっくりすることもあります。
しかし、どうやって好みの餌がある場所を見つけ出しているのかな?と思うこともしばしばで、野良ビワが勝手に実を付けたのを見に行ったところ、ちょうど熟したころになって多数の本種がビワの実をかじっていてびっくりしました。
その後、ビワの実が無くなってしまうと沢山いたカタツムリたちも分散してしまい、同じ木の周辺では見られなくなってしまいました。

--------------------------- 2021.09.29 追記・写真追加 ---------------------------

本種に限りませんが、一般的にカタツムリは「梅雨」の時期に活発に活動し、繁殖行動もとっています。
しかし、真夏の暑い時期をはさんで「秋霖」の時期にも繁殖行動をとっています。
寒くなる前に繁殖するのは稚貝にとっては不利なのでは?と思いましたが、いわゆる「秋雨」の時期にはキノコ類も盛んに成長するため、栄養的にも好都合なのかもしれません。

柄眼類のカタツムリは雌雄同体ですが、交尾によってお互いの精子交換をしつつ、産卵もするのが普通です。
キセルガイの仲間がV字型にくっついているシーンというのはよく見かけるのですが交尾しているのかは一見してもよく見えず、それに対して本種のような大型のマイマイ類の交尾は判り易いですね。
雄性交尾器を相手の体に挿入するだけでなく、「恋矢(れんし)」と呼ばれる石灰質の槍のような器官を相手に突き刺す行動がみられます。
最近の研究では彼らが交尾時に「恋矢」を突き刺すのは、相手の体にホルモンを注入して受精の確率を高めるためだそうです。
しかし、最近の研究では「恋矢」で刺されることによって、結果的に彼らの寿命が短くなってしまうことが分かってきたそうです。
利己的な遺伝子という言葉がよく使われますが、自分が産卵するよりも自分起源の遺伝子を多く残させるために相手の産卵数を増やさせることで、結果的に産卵による消耗で寿命が短くなってしまうということでしょうか。
長い寿命で複数回産卵するよりも、少ない回数で沢山産卵する(させる)ほうが有利となることで進化してきた習性かもしれませんが、何となく「矛盾」(この場合は矛ではなく矢ですが…)を感じてしまうishidaです。

そのような頭で彼らの交尾を見ると、「恋の季節」というよりも「生きるための闘争」のように見えてきました。
交尾中もできるだけ相手の「恋矢」に刺されないようにするためか、交接後はお互いに距離を取り合っているようにも見えてきます。

ちなみに、キセルガイの仲間の場合は非常に寿命が長く、交尾自体も平和的で他のマイマイ類のように「恋矢」の刺し合いは無いのか、そもそも「恋矢」を持たないのか、単に「恋矢」による寿命への影響がないのか、どうなっているんでしょう。

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大触角間の「頭瘤」が盛り上がって、右頬の生殖孔も膨らんでいます。「発情」というより「バトルモード」に見える。

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自宅裏庭で見た交尾ペア。左の個体の生殖孔に「恋矢」が見える。

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山地で見た交尾ペア。交尾しつつも、お互いに距離を取ろうとしている。