イボイボナメクジ

軟体動物門 腹足網 収眼目 ホソアシヒダナメクジ科 体長約30mm

iboibonamekuji_P1324981.jpg - 121,873Bytes
やや明るい体色で意外に目立ちます。

iboibonamekuji_P1324986.jpg - 111,230Bytes
はじめはおちょぼ口かと思ったら、小触角が前後に幅広で二股状になっていました。

iboibonamekuji_P1324994.jpg - 117,352Bytes

iboibonamekuji_P1325253.jpg - 170,956Bytes
木の幹を這っていたもの。

iboibonamekuji_P1325269.jpg - 157,367Bytes

iboibonamekuji_P1325274.jpg - 108,665Bytes
マント(外套)の下に幅の狭い腹足があるように見える。

iboibonamekuji_P1325288.jpg - 132,499Bytes
岩の上で縮こまっている?

iboibonamekuji_P1325291.jpg - 106,317Bytes
反対側から見ると、明らかに巻貝を捕食している様子。捕食されている側の貝も種不明です。

iboibonamekuji_P1325814.jpg - 153,053Bytes
小触角は前後に長くて微妙に二又状。大触角(眼丙)は墨汁を垂らしたように黒い。

iboibonamekuji_P1325776.jpg - 122,177Bytes
口先は突出しておらず、口器は普段は浮かせているようです。

iboibonamekuji_P1336771.jpg - 103,782Bytes
こちらは10mm程度の一年生?小触角の形は二股状ではない。

初めて見たときには「なにこれ?」という感じで、やけに細長い体形やざらざらした革質感を感じる体表、真っ黒で短い眼柄、前後に幅広の小触角など、異質な感じのナメクジです。

現地での個体数自体は意外に多いようで、初対面した時でも雨上がりの朝2時間ほどの間に岩の上や木の幹などを活発に這っている5個体を確認しました。
最後に見た5個体目は何だか縮こまって動かない状態で、変だなと思って反対側に回ってみると、小型の巻貝を捕食しているように見えました。

「肉食性のナメクジっているのかな?」と不思議に感じ、帰宅後に「ナメクジ 肉食」とググってみてもくだらない記事(^^;や海外のものしかヒットしません。
数少ない手持ちのカタツムリ図鑑「カタツムリハンドブック(誠文堂新光社)」や「カタツムリ・ナメクジの愛し方 日本の陸貝図鑑(ベレ出版)」でももちろんとりあげられていませんでした。
しかし、いろいろな記事を読み進んでいくと、見付かりました…種名が判るとWikipediaにも種として記事があることも判明…(^^)
Wikipediaには毎年寄付しているので臆面無く引用させてもらうと、「イボイボナメクジ」という漫画のような名前は「オモイガケナマイマイ」の命名者と同じ湊宏さんによるものだとのこと。
イボイボナメクジの特異な形態はやはり一般的な「殻を無くす方向に進化したカタツムリ」ではなく、アシヒダナメクジのように海棲のイソアワモチなどに近縁な「貝殻を持たない巻貝が海から陸上に進出したもの」であり、陸上には殻を背負った親戚はいないようです。
確かにその気で見ると体の下部全体が腹足になっている一般のカタツムリやナメクジと違い、アシヒダナメクジのように「幅の狭い腹足の上に革質のマントを羽織っている」ような体のつくりに見えます。
記載種としては四国産のものを基に「イボイボナメクジ」とされていますが、外観で区別のつかないものが西日本中心に各地に分布しており、今後は数種に分離される可能性があるとのことです。
その後に予約注文してあった「ナメクジはカタツムリだった? (岩崎書店)」が届いてみると、そこでは大きく扱われていました。

いったん知ってしまうと生息地では意外に見掛けることは多く、見た限りでは一般的なカタツムリのように岩や木の表面を舐めるような行動はせずに頭部の下側にある小触角で探りながら活発に動き回って獲物を探しているようにも見えました。
他のカタツムリの後ろを這い痕に沿って本種が這っているところも見ましたが、方向が180度反対だったためか、だんだん遠ざかってしまっていました…(^^;

いずれにしても、本種のような(カタツムリ界の)高次捕食者が生息するためには小型の陸貝類が豊富に生息していることが条件になるため、自然度の高い環境が必要ですね。

------------------------ 2021.07.29 追記 ------------------------

「イボイボナメクジ」が生息する環境下では、実際に自分が知っている範囲では殻口に蓋のないカタツムリとしては「オオケマイマイ」が最も生息数が多いように感じます。
殻の周囲に謎の毛(殻皮毛)を持つことでどんなメリットがあるかについては諸説あって、「体を大きく見せる効果がある」といった説が言われていますが、はっきり言ってそれが彼らの生存や繁殖にとって何のメリットが?とも思っていました。

ishida式では上記に対して以下の二つの説を唱えています。
【説1】体の輪郭を判り辛くすることで捕食されにくくする。
これは多くの隠蔽的な昆虫や魚類などでもみられる形態です。
実際に大型の一般的なカタツムリは昼間は落ち葉の下などに隠れてしまうが、オオケマイマイは意外に無防備に岩の表面などで休眠していることが多いように感じます。
ただし、鳥類などの視覚に頼って獲物を探す相手には有効だが、嗅覚で獲物を探す相手には効果は薄いと思われます。
イノシシなどは落ち葉や腐葉土を掘り返して嗅覚で隠れているカタツムリを捕食してしまいますが、逆に岩の表面や隙間などに貼り付いているオオケマイマイはイノシシに捕食され難いのかどうかは不明です。
【説2】岩の隙間などに隠れる際に、殻がつっかえてしまう前に毛が当たってそれ以上奥へ進むのを防止する。
大型の個体ではこの毛がかなり欠損しているものも多いのですが、成長の止まった後はある程度は自分の体の大きさが学習されているとか…?

上記に加えて【説3】「イボイボナメクジ」などの捕食者を撃退する効果も期待できるのかなと思う観察例があったので紹介します。

杉の木の皮上を移動していたイボイボナメクジがオオケマイマイに接触したところ、オオケマイマイが軟体部を縮めて殻のトゲトゲをナメクジに押し当てるようにしたら、イボイボナメクジは嫌がって襲うのを中止したように見えました。
実際には獲物としては大きすぎて捕食に適さないと判断した可能性もありますが…
それでも、カタツムリと平行に這っていたイボイボナメクジが、匂いに気づいたのか急に90度向きを変えて一直線にそちらへ向かったのは確かで、獲物と認識したように見えました。
イボイボナメクジは体を裏返してカタツムリの腹面側から殻口に取り付こうとしますが、トゲトゲで腹足側を押されて慌てて反転して逃げてしまいました。
今回は獲物にするには相手のサイズが大きすぎた気もしますが、イボイボナメクジは小型のカタツムリの殻の上にのしかかるようにして動きを封じたうえで殻口に頭を突っ込んでいるようなので、小さなオオケマイマイでも周縁のトゲトゲが抑止効果になっているという可能性もあるのかなと思います。

ishidaの活動は自然観察と撮影が主ですので、研究者の方たちのように採集したり実験したりして確認することはしませんが、ちょっと興味深いなあと思ってご紹介(^^)

iboibonamekuji_P1336911.jpg - 92,754Bytes iboibonamekuji_P1336924.jpg - 74,589Bytes
杉の幹を這うイボイボナメクジ。カタツムリはめくれて浮き上がった皮のほうにいます。(左)
這い痕の臭いで獲物の位置が判るようで、この後で急に向きを変えて一直線に向かいました。(右)

iboibonamekuji_P1336928.jpg - 69,053Bytes iboibonamekuji_P1336930.jpg - 67,303Bytes
イボイボナメクジは体を裏返してカタツムリの腹面側に貼り付こうとしています。(左)
カタツムリの軟体部が縮んで側面の毛がナメクジに押し当てられます。(右)

iboibonamekuji_P1336932.jpg - 67,843Bytes iboibonamekuji_P1336933.jpg - 64,600Bytes
腹足をトゲトゲで押されたイボイボちゃんは、たまらず反転?(左)
かなり強く押し付けられているようで、まだ腹足が引っ掛かっています。(右)

iboibonamekuji_P1336939.jpg - 112,404Bytes
「やれやれ、えらい目に遭ったわ」と言っているように見えました(^^;

iboibonamekuji_P1382707.jpg - 115,388Bytes
小型のオオケマイマイが捕食されているのも見た。