イカリモンハンミョウ 
昆虫綱 甲虫目 オサムシ科 体長13mm前後

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他のハンミョウとは全く違う独特の「錨」状の斑紋。

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特にメスは胴体の幅が広くてラグビーボール状に見える。

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マウントの体勢に入っているペア。

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オスは特に白毛が目立ち、口周りの白さも際立って「白いハンミョウ」に見える。

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オスはやや小柄で胴体がスリム。

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メスはオスにに比べるとややずんぐりした体型に見える。

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上手いこと良い角度でポーズをとってくれた。

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ハンミョウが視界を広げるためにとるこのポーズをishida式では「ハンミョウポーズ」と呼ぶ。

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もちろん、暑い砂から体を出来るだけ離すという効果もありそう。

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「ハンミョウポーズ」は、なるべく低いアングルで撮りたいよね。

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他のハンミョウに比べて後脚を大きく横に開くポーズは本種独特だと思う。

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今まさに波が引いて水に浸かっている砂の上で獲物を探しているところ。

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波が引いた砂の表面に出てきたヨコエビを捕食。

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砂地に空いた幼虫の巣穴。近付くと警戒して穴に引っ込んでしまうが、右上の幼虫だけ引っ込んでいない。

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他のハンミョウとは全く雰囲気の違う幼虫。ヘルメットの形状だけでなく、色合いも独特。

「イカリモンハンミョウ」は九州南部(主に宮崎県と鹿児島県の一部)と本州の一部(能登半島)に隔離分布する海浜性のハンミョウで、砂浜の波打ち際で活動するという変わった習性を持っています
最大の特徴は名前の元になった背面の錨状の斑紋ですが、色合いも独特だし各脚の脛節が明るい茶褐色(メスは暗褐色)なのも他のハンミョウとは明らかに違う印象です。
上唇は真っ白で大顎も先端と小歯以外はほとんど白く、更には体側・下面の白毛が非常に多いだけでなく各脚の腿節の白毛が毛深いため、白っぽいハンミョウに見えます。
更には、幼虫も白毛が多くて色合いも成虫を連想させるメタリック感があり、ヘルメット(実際には前胸背板)の形状も何だか変わっています。

2023年の九州遠征では本種も主要な目的種の一つだったのですが、残念ながら猛暑と台風の接近によりほとんど探索が出来ませんでした。
九州の生息地はそれなりに多くあるようなんですが、なかなかおいそれとは訪問し辛い地域ということもあって再訪できていません。
能登半島の生息地は2024年1月1日の能登半島沖地震による津波の影響も心配だったのですが、2024年夏の発生時期にも大きな影響なく多数の本種が見られたとのことで、2025年は西表島遠征後の適期を狙っての遠征でしたが、ピンポイントで能登の生息地を目掛けて日帰り遠征を敢行、やっと初の対面がかないました。

生息地が石川県指定の天然記念物として保護されていますが、本種自体も「石川県指定希少野生動植物種」として採集が禁止されています。

生息地についてはそれなりに事前リサーチはしてありましたが、現地では特にこれといった表示は見当たらないものの、生息地の海岸への車の乗り入れを防止する車止めが設置されていました。(車で乗り付けられる駐車場で「能登はんみょう海岸」という表示とともに車両乗り入れ禁止範囲が書かれた、かなりくたびれた看板も見付けることができました)

最初に入ったポイントではさっそく砂地で活動するハンミョウを見付けることができましたが、何かやけに小さい…お馴染みの「エリザハンミョウ」でした(^^;
更に見回すと、一回り大きな斑紋のはっきりしたハンミョウも混じっていて、今度こそ…と思ったら、どうも初見の「ハラビロハンミョウ」のようです(^^;;;;;
更にしつこく探索して、やっと特徴的な斑紋を持つ「イカリモンハンミョウ」と対面できましたが、何となく前途多難な気持ちも湧いてきました。
とはいえまだまだ生息地の端(天然記念物指定の範囲外)なので、気を取り直してさらに次のポイントへ移動すると、何と想像以上の高密度で活動中の本種を見ることができました。
しかし、敏捷さも想像以上で、ほとんど静止しないし警戒心も強くて逃げ足が速い(^^;
これはこれまで出会ったハンミョウの中でも最も撮影難易度の高いハンミョウです。

事前調査通り、本当に波が時折り被るような波打ち際の濡れた場所に集中して見られ、引く波を追いかけたり、寄せる波から逃げたりしています。
よく見ると、立ち止まっては大顎を砂に打ち込むような行動が頻繁に見られ、これは「エリザハンミョウ」のように砂から顔を出すヨコエビなどの小動物を捕食する行動のようです。
同じ海浜性で砂浜に棲む「カワラハンミョウ」などは乾燥した砂地を走り回って、生きているものでも死んでいるものでも何で見食べている印象ですが、本種の場合は砂の中から顔を出す生きた小動物だけを捕食するようです。
その気で見ていると、波が引いてゆく過程の砂地には「ヨコエビ」や「トビムシ」などの小動物が動き回っており、水が砂に浸透してゆく間にまた砂に潜ったりして活動しています。
そういった逃げ足の速い獲物を捕食するため、彼らは常に波が洗うような砂の上を移動し、潮の干満に合わせて前後には移動はするものの、活動中のほとんどの個体は汀線の前後に集中して見られます。
また、陸側から波打ち際に向かって移動してくるもの、逆に陸側に移動していくものも時折り見られることから、波打ち際での活動は主に採餌活動のようです。
ハンミョウの中には「オキナワシロヘリハンミョウ」のように幼虫の巣穴が水没してしまうような場所で生活するものもありますが、本種のような砂浜に棲むものはもちろん幼虫の住処は水没しない範囲にあると考えられます。
陸側の探索もしてみると、明らかに本種の幼虫の巣穴らしきものが植生のある陸側との境界に近い砂地に集中してあるのが判りました。
よく見れば、海岸線からやや離れた幼虫が住んでいる周辺の乾いた砂地でも成虫が活動しているのが見られましたが、こちらではマウントしているペアやそれに干渉するあぶれオスの比率が多く、採餌場所と繁殖行動を行う場所を使い分けているということのようです。(水際でもマウントを試みるオスは多いが、メスが拒否してほとんど成立していなかった)

成虫の採餌場所である水際とは別に、幼虫の巣穴が安定的に形成できる範囲というのは意外に狭い範囲ではないかと思われ、満潮や悪天候での水没の恐れがなく、なおかつ適度な湿度が保たれるような場所(乾燥しすぎると巣穴が維持できないため)かつそれなりの餌となる生き物が供給されるような緑地を含む後背砂丘があることが幼虫の生息には適していると思われます。
上記からすると、成虫と幼虫が別々の獲物を捕らえることで、海岸という狭くて餌資源も乏しい過酷な環境をそれぞれ使い分けているということも考えられます。
とはいえ、逆に汀線と後背砂丘の距離があまりに遠いのも不都合に思えるので、汀と後背地が近すぎず・遠すぎずといった微妙な距離であることも生息の条件かもしれません。

能登といえば車が走ることができる「千里浜ドライブウェイ」に代表されるきめの細かい砂浜が続く海岸線と砂丘があるという本種の生息に適した環境があるお陰で、他の地域では消滅してしまった本種がここでは遺存的に生き永らえてきたということでしょうか。
能登半島西部から西へと続く海岸線の場合、過去にはそのような環境がずっと広い範囲にあったと思われますが、護岸や車の乗り入れ、流入河川の改変による砂質の変化などのため生息範囲が狭まり、護岸のされていない砂浜が残ったわずかの範囲にだけ生息しているというのが現状のように思います。