アギトアリ 

膜翅目(ハチ目) アリ科  体長12mm前後

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7月に見付けた働きアリの亡骸で生息を確認しました。

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8月の長雨後に探しに出掛けたら、早速見付けました!

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歩いているのを見れば見間違いようがない独特のプロポーションです。

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多数の亡骸が見られた場所では新女王の亡骸も発見。全体にがっしりしていて各部が太い。

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通常の体勢。この状態だと大顎の先まで全長10mmを超えている。

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捕食準備の体勢。大顎は大きく180°まで開くことができる。

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大顎の内側には6本前後の長い感覚毛が生えていて、獲物に触れると自動的に大顎が閉じる。

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大顎の先端は大きく内側・下側に湾曲し、大きな3歯を形成。

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正面から見るとちょっとユーモラス。

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夜の山道で多数の働きアリが活動中でした。

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同類を獲物としている?所属する巣が異なれば同類も獲物にしてしまうのはアリ全般の行動ですね。
→実は捕食行動ではなく、仲間を運んでいるようです。

ハリアリ属は主に小型のものが主ですが本種は体長10mmを超え、日本産としては「クロオオアリ」や「ムネアカオオアリ」などに次ぐ大型の部類のアリです。
立派な大顎と扁平で前後に長い頭部を持ち、体長はほぼ「クロオオアリ」と同等ですが体形はスリムで全体的に華奢に見えます。
特徴的な頭部と大顎のせいもあっていかにも狂暴そうな顔付きで、実際に肉食性の傾向が強いようで、大顎を180°開いた状態で歩き回り、大顎の内側に生えた長い感覚毛に獲物が触れるとトラバサミのように大顎を閉じて捕獲するとのことです。
この大顎が閉じる速度は非常に早くて強力で、強大な力を発揮する筋肉を内蔵するために頭部は前後左右に大きくて、特に両頬のふくらみが大きくなっています。
長大な大顎は先端で大きく内側と下側に湾曲して先端部に3歯を形成しており、先端と2番目の歯は先端が尖っているのに対し、根本寄りの3歯目は臼歯のように太くて頂上が平たく、先端の2歯がこれ以上相手に食い込まないようにする(または勢い余って大顎が破損するのを防止する?)ストッパーの役目を持っているように見えます。
ただ、いかにも危険な武器のように見えるこの大顎ですが、実際には獲物を挟むことに特化しているため他種のアリのように獲物を分解する「ペンチ」や「ニッパー」のような用途には使いづらいと思われ、植物食は難しそうです。

また、個体差なのか同種内に2型あるのか、単に使用に伴ってすり減っているのかはよく判りませんが、大顎の先端の2歯がシャープに尖っているものと先が丸みを帯びているものの2タイプがみられました。

本種の本来の自然分布は九州の一部と屋久島、種子島〜海外では中国・東南アジア・インドなどですが、近年は日本各地に分布を広げているとのことです。
人や物の移動による(無作為な)人為的分布拡大とみられていますが、はっきりしたことは判ってないようです。
愛知県では近年になって知多半島でも生息が確認されたようですが、東三河での発見例はこれまで聞いたことがありませんでした。

以前から「大型なうえに異形でカッコいいアリだな」と思って出会いたかったものの一つでしたが、本来は九州や沖縄(オキナワアギトアリが分布)へ行かなければ見られないものが、地元で見られるのを喜んでよいものかどうか…ちょっと微妙な気持ちです。
いわゆる「国内外来種」の範疇に入りますが、本種の侵入が在来の生態系にどのような影響があるかについては未知数です。
今回見付けた場所ではアリとしては国内最大種の一つの「クロオオアリ」が同所的に生息していますが、競合しているということはない(逆に本種のほうが圧迫を受けている?)ようにも見え、「クロオオアリ」が活動している領域には進出できていないのか「草地や乾燥地:クロオオアリ」「森林や湿潤地:アギトアリ」といった感じで棲み分けているようにも感じました。
ただ、本種は基本的に夜行性とのことで、活動時間帯をずらすことで共存している可能性もあり、その場合は夜間活動する生き物との競合や本種の捕食圧も無視できませんね。

-------------------- 2021.10.23 追記 --------------------

その後の観察では、最初に確認したのと同じ山域の別の場所でも生息が確認できたので、少なくとも渥美半島での定着は確実なようです。
また、夜間に観察に出掛けた際には多数の働きアリが活動しているのも確認でき、一般に言われる「夜行性」という話しも真実のようです。
また、ネットの記事では「大顎の閉じる勢いでジャンプする」といった記述を見たことがありましたが、確かに頭部を地面に打ち付けるようにして後方にジャンプする動作を見ることもできました(^^)

-------------------- 2022.9.17 追記 --------------------

2022年に観察した際、再び同類を運んでいるのを見付けました。
実は他の巣のアギトアリを捕食しているわけではなく、仲間を巣に連れかえっているだけのようです。
今回、実際に観察できた事例は、休憩しているアリに対して他のアリが後ろから近づき、腹柄節をそっとくわえて持ち上げて運んでゆきました。
その際には、運ばれる側のアリは特に抵抗することもなく、逆に左右に脚を広げるようにして運びやすい態勢をとっているようでした。
周囲でも何組かそのように運ぶ/運ばれる関係で歩き回っている物を見掛けましたが、今回は運ばれることになった側の個体があまり活動的ではないのは確かですが、「弱っている」のか「さぼっている」のかは判りませんでした。
運ぶ側からすると単に弱っている個体は単なる食料として持ち帰っているだけかもしれず、帰巣後にどうなっているかまでは判らないのが実情です。
この様な行動が一般的なのかどうかは判りませんが、他種のアリでも「働きアリが兵アリを運搬する」といったような行動をとることがあるようですね。
また、前年に側溝の中で多数の活動中の個体や死体を見ましたが、今回も林道わきの側溝や集水桝などで多数の個体を見掛けました。
未明までの雨で流された多数の個体が集水桝に浮かんでいる状態だったことも含め、夜間に活動することや、昼間は薄暗い森の中や側溝沿いで活動しているというのも連想させます。

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右から来た個体が、あまり活動的でない左の個体に後ろから近づいて探ります。

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後ろからそっと腹柄節をくわえます。左の個体は特に抵抗することもなく持ち上げられます。

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運ばれる側は、脚を広げるようにして運ばれてゆきます。

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活動中の女王も見付けた。胸部は大きいが全長は職アリと大差ない感じ。

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既に交尾済みなのか、翅を落とそうとするような仕草が見られた。